がうす通信第60号(2003/04/15)


 

鳥取 高圧線訴訟 地権者の訴え退ける判決

     文部科学省の「評価」を早速使用した電力側

 鳥取県溝口町に中国電力が建設した高圧送電線に対し、地権者の西村幸人さんらが鳥取地裁米子支部に起こしていた訴訟の判決が3月20日下された。原告は高圧線が景観を損ね、電磁波が健康に害があることなどから送電線の撤去を求めていたが、裁判長は原告側の訴えを全面的に退ける判決を言い渡した。

 判決は原告が根拠としていた自然環境を享受する利益が侵害されたとの主張を「受忍限度を超える侵害を原告らに及ぼしているとまでは言えず、生命、身体への侵害の恐れは認められない」とし、電磁波の影響についても「電磁波強度と人との因果関係を明確にするのは困難」と退けた。

 50万ボルト高圧送電線、中国東幹線は土地所有者である西村さんの共有地運動など強い反対にかかわらず、2000年には収用の裁決も下り、建設が強行された。西村さんらは講演会開催、公害調停の申請、収用委員会への意見書などさまざまな手段で抵抗してきた。

同年10月に発生した鳥取西部大地震では高圧線鉄塔(黒坂線)が倒壊し撤去のあと、各地の鉄塔敷設地周辺の補修と鉄塔補強は2001年春まで続いた。

 こうした中で西村さんらは訴訟活動を開始し、鳥取県知事に対して「大規模行為(景観条例)届出審査の無効確認」、そして収用委員会に対して「採決取り消し、審理の瑕疵」を理由として訴えた。2001年5月には中国電力を相手に民事裁判提訴を行っている。

 2003年2月に行われた証人尋問では、山梨大学工学部の有泉均講師が証人として出廷し、WHOの報告や中間報告が出ていた日本の疫学調査を朝日新聞(8月24日)の記事なども証拠として提示した。

しかし中国電力側は、その日1月30日付けの電気新聞を示し次のような陳述を行った。「・・・本日付け、1月30日の電気新聞という記事を見ますと、その中にこう書いてあるんですね。この研究結果について、文科省は科学技術・学術審議会、これは文科省の諮問機関で、この研究結果の評価を実施したと。その結果、先ほどの審議会では研究結果は一般化できるとは判断できないと結論づけて、研究成果についてはA,B,Cという3段階の中で最低のCランクとした、とこういう記事がありますが、その点ご存じでしょうか。まだ昨日、今日のことだからおわかりにならんでしょうね・・・・。そしてその次に、ここの記事に書いてあるように、文部科学省が有意なリスクがあるとの研究結果を公表したとの一部報道について文科省の科学技術・学術政策局調査調整課では、報道は事実誤認であり大変遺憾という話をしとると、こういう記事が出とるんですけどご存じでしょうか」と反論したのだった。

このように文部科学省の評価部会の「評価」が疫学調査のリスク評価を打ち消す形で作用し裁判にまで早速利用されている。これらを受け、3月20日の最終判断が下されたのだった。 

以下の内容を英訳し世界各国の電磁波関連団体へ送った(4月初め)。

「高圧線の電磁場で白血病リスク」疫学調査報告のゆくえ

ガウスネット代表 懸樋哲夫

高圧送電線などから発生する超低周波の電磁場と小児白血病などとの関係を調べるため文部科学省の予算で国立環境研究所が中心となり進められてきた疫学調査の最終報告が1月28日「概要」として発表された。

99年から3年間に11の機関が参加し、総額7億2125万円の費用が投じられた調査ですでに2002年3月の時点でまとめられていたものだ。国立環境研究所はWHOの電磁場調査研究にも協力しており、2月にルクセンブルクで開催された会議でもこのレポートが発表されているはずである。

 「研究報告概要」によると、全国245の病院ネットで2002年3月までの約3年間の小児白血病約1440例から最終的に症例約310例を調査対象としその結果子供部屋の平均磁界レベルが、0.4μT(4ミリガウス)以上でリスクが有意に上昇するパターンを示すこと、また、それ以下の磁界レベルではリスク上昇傾向は認められないことが示唆されている、ということが明らかにされたものである。中間発表としての朝日新聞の報道(8月24日)でも明らかにされていた通りであり、電磁場が低いレベルでもリスクがあることが確定し、国も認めざるをえなくなったと思われた。

しかし同時に、文部科学省・評価部会による「事後評価」というものが出され、これがこの研究そのものを否定し尽くす内容であった。ABCの3段階の分類で評価されるものがこの研究について11のすべての項目について不十分という意味の「C評価」だったのである。

評価では「症例数が少なすぎる上に、検討した交絡要因の影響の除去が適切であるか不明である・・・」「選択バイアスについての詳細な検討がなされておらず、方法論に対する疑問が残った」などとして手法について問題とし、「電磁界の強度が我々の健康にどのような影響を与えるか明確に出来る研究展開が望まれたにもかかわらず、電磁界の健康影響を推測するには非常にあいまいな調査結果に終わった」としめくくっている。

しかし調査の規模は世界3番目の症例数になっておりこれに「症例数が少ない」などという批判はどう見てもあたらない。また、「選択バイアス・・・」についても、兜氏本人が調整を図り配慮をされていることが明らかにされている。つまり「評価」は疫学調査の結果についてこれまで電力業界から繰り返されたいつもの批判と同様のものであり、それはどんな疫学調査であっても否定することなのである。そして「電磁界の発生源が特定されておらず、また高圧線との関係について検討されていないにもかかわらず、研究者がそれについて言及していたことは誠に遺憾である」など研究所のリーダー兜氏の姿勢そのものにも言及している。

さらに文部科学省の担当部署は「報道は事実誤認であり、大変遺憾」とコメントし朝日新聞の報道にまで批判を展開して調査報告の事実を明らかにする行為を牽制している。

こうした「報告」と「評価」をめぐる文部科学省・評価部会の対応は4ミリガウスという低いレベルでもリスクがあるという電磁場問題の基本的で焦眉の事実を認定するべき課題の結論をまたも先送りした上、研究そのものもこれで終わりにしようするばかりか、対策を遅らせようとする政策的行為によって事実にふたをしようとする行為に他ならず、世界に向かって日本の研究体制が政治によって左右されることを示してしまったものというほかはない。