公共性を忘れた関東の鉄道会社、その対応 
 携帯電話の使用容認に抗議して 
                                     川合 徹 

                     

8月30日。朝の新聞を見て驚いた。前日に関東地方の鉄道各社が、車内の「携帯電話のルー
ル」を緩和する方向で統一すると発表したらしきニュースが載っていたからである。

これはおかしい。とんでもないことになったと感じて、その日の夜から、まずは新聞に投書するこ
とから始めてみた。そのときに書いたのが、おおよそ以下のようなものである。

関東の鉄道17社が車内での携帯電話のメールを容認(電源オンを緩和)するという記事を読んだ。寝耳に水である。私も携帯電話を使用するが、数年前に身近で医療機器を使っている人がいることを知ってからは、公共の場で他人が側にいるときは電源を切るようにしてきた。医療機器利用者はけっこういるものだし、またどんなに健康な人でもいつお世話になるかもしれないのだ。バリアフリーなどの考え方から逆行することには反対である。  

また、携帯電話の電磁波については、生体にも何らかの影響を及ぼしている。それが安全かそうでないかは議論がある。外国では選択のための情報をきちんと伝えていたり、子どもに対して勧告を出している国もあるという。

もし仮に現実的なルールに統一するにしても、なぜゆるやかな鉄道会社のやり方に合わせるのか。優先席付近というのではなく、車両ごとに電源のオンオフを分けるやり方のほうが混乱が少ない。今回の決定は撤回もしくは延期し、議論の過程など情報を公開したうえで再検討すべきである。

 

 もう1つの新聞にも投稿してみたが、2つの新聞社にとりあげられることはなかった。

 9月1日からは、主に自分が利用する機会の多い鉄道会社に対して、少しずつ電話をかけたり、
ホームページ上からメールを送って意見や質問をぶつけてみた。

 鉄道会社とのやりとりを紹介しよう。私が電話、メール、直接、また文書などで意見や質問を伝
えた会社は7社であるが、応対についてはおおよそていねいであった。しかし総じて、中味的に
は、「統一した」以外の理屈がほとんどないように感じられた。驚くことに、こういう理由で今回はこ
うしたとか、この問題点に関してはこう考えている、こうクリアできるとか、そういうことすら言えない
のである。また今回の決定のプロセスを知らせることもしない・できないようであった。

 JR東日本は、比較的早く準備に動いていた会社だが、この決定を必ずしもずっと続けるとは
限らないと言いながらも、利用者の意見に対してふたをする姿勢が見られた。東武や営団地下
鉄はていねいであり、かなり正直に内実まで伝える様子が見えたが、他の会社の準備状況をこ
ちらに聞いたりするなど、自信がなさそうであった。営団に至っては、結局、実施日を過ぎても準
備が間に合わなくて、それ以降も本気度が感じられない。迷走している。それまで、車掌をはじ
めとして駅員の努力によって電源オフということに進んでいた路線だけに、今回の降ってわいた
ような上からの決定が、現場の努力に水を差すのはもったいないことである。

 意見は異なるものの、比較的早く連絡をとってくれてていねいに答えようとした会社が東急、西
武の2社。東急については、利用者窓口が一番充実している。回答を求めてからも担当者が夜
に電話をしてくれて、かなり長い間話をした。東急の方式は前からユニークだと感じていたし、こ
れをなぜ統一案にするようにがんばらなかったのかと食い下がったが、必ずしも守られていませ
んでしたからなどと弱気に下りてしまったようであった。早く尊敬できる東急に戻ってくれるように
と思う一方、入り口の問題は検討しますと言ってくれたのは、さすがではある。

 今回、一番明確な回答をくれたのが京成である。電話で担当部署と話をしたのだが、私は直
接利用する路線ではないが今回のやり方に反対していると伝えても、決して話にふたをすること
なく沿線の事情をていねいに話してくれた。こちらの話もよく聞いてくれた。「今回のやり方がい
いとは思っていない。苦渋の選択であった」、「せめて優先席付近は電源オフで守る。つり革そ
の他に明確に示し、新車には線まで引こうかとも思っている」などと本気度が感じられた。私の沿
線の営団では、朝の通勤時間に限ってではあるが、比較的マナーが良く、仮に電源を入れてい
る人が近くにいても、10人のうち8人は注意できて、そのうち7人はすぐにやめてくれている。そ
んな沿線事情からみると、今回のことは大改悪なのだが、路線によって事情は異なるようだ。そ
んなことからも無理な統一などできないということであろう。

 自分の一番利用する3社の中味が一番悪い。9月10日には会社を休んで、あわててその時点
までの考えを何とかまとめ、2社については本社まで直接、1社については相談室から本社に届
けてもらうように、意見及び質問書を持参した。その時の文書が、おおよそ以下のとおりである。
その3社(営団、東武、JR東日本)については実際には、私の考えの要約にもなっている前記の
新聞社向け投書の文章も初めに添付して、さらに失礼ながら経営トップの人にも読んでもらおう
と考え、同様のものを社長宛てとしても同時に託した。

私は、この度の車内での携帯電話のマナー(案内)変更につきまして、大変危惧の念を抱いている者です。ここに意見及び質問を簡単にまとめてみました。お答えをいただくとともに、ぜひ再検討されるようにお願いいたします。

今回の決定には内容面、手続き面で問題があると考えています。まず内容面ですが、今回のやり方は通話はともかくとして携帯電話の使用を大きく許容することになり、ペースメーカー使用者、生活の質の維持のための医療機器使用者や、携帯電話の電磁波が気になる者、メールや操作に対して不快を感じている者などに対してすべてを優先席付近へと追いやることになります。それぞれの人は症状、生活のしかた、考え方などがまちまちです。その自由を奪うことになります(ましてや割合も1:4から1:9というもので少数派として扱われ、カミングアウトしたくない人まで知られる結果にもなりかねません)。私たちはレストランとかデパートのように意に沿わないお店を選ばないということが、鉄道会社の場合ほとんどできないのです。公共交通機関に求められるものは、第一に公共性と安全性ではないでしょうか。

さらに、優先席付近ということですが、そもそも電磁波が一番問題となる、通勤・通学時の混雑時には、始発電車に乗ることができる人以外は、中までたどりつくことすら困難でしょう。このことから、優先席のある入り口付近(ホームも含めて)、そこから左右へと分かれる狭間は当然、電源オフゾーンでなくては困ります。このことも周知徹底できるのでしょうか。

また、優先席の位置は電車に乗る前から明示していただかないと困ります。車体にはもちろんのこと、ホーム上にもです。とくに朝の時間は時間に余裕がなく、ばたばたしている状況が一般的です。このやり方だと、「空いているドアからお乗りください」などと案内することが今後できなくなりますので、あらかじめ明示できないと電車はますます遅れがちになります。以前の問い合わせで、それはできかねるなどという会社がありましたが、できないのはこのやり方に無理があるということなのではないでしょうか。

電車は金属の箱です。今回の携帯電話電源オンの緩和により、今まで以上に車中で電源を入れている人が増え、以前学会報告があったと思いますが、もしかして電磁波が安全基準を超えるとも限りませんし、車両によって分けていないので、反射などで望まない電磁波が他の人に影響を与えるかもしれません。

もう一回電源オンとオフの割合について触れますが、これは逆でしょう。呼吸するとかいう基本的なことではなく、人間が社会的にある行為を行ってそれが他人に何らかの影響を与える場合、何もしない側のほうが優先されるべきではないですか。たとえば、図書館にノートパソコンを持ち込みたい人が増えてきた。図書館によっては、筆記用具と紙という古典的なものだけではなく、場所を限定して新しい要望にも応えていく。メールなど携帯電話を使いたい人が増えてきた。それを限定した空間で応えていく。それが筋でしょう。

手続きの問題です。まずは、告知から実施までの期間が短すぎます。2週間程度ですね。こんなに大きな変更をしようとしてそれはないですよ。関西のある鉄道会社は4週間弱とっています。これでは、利用者が意見や要望を述べたり、仮にやり方が正しかったにせよ、実際にシミュレーションをしたりできないです。あろうことか、鉄道会社のほうも宣伝・広報、利用者の質問・疑問などへの対応、優先車両の増設、車両・ホームへの明示も含めた対応、あらかじめ起こりうると思われることへのシミュレーションなど、本来前もって行ってから移行すべきことが未だにできていないとは。

また、決め方のプロセスが明確でないです。会議に利用者の代表などを呼びましたか。事前にアンケートその他、十分な調査・分析をしましたか。またそれらを公開していますか。(ここらも関西の鉄道会社は、直前にもアンケート調査を行い、その結果をHPで公開して、考え方を明確にしています。アンケートの内容の分析には大いに疑問が残るものの姿勢は明らかに異なります)。特に統一で行うからには、事前にいろいろな人の考えを聞いて、分析、シミュレーションして、現実的な道を探ればいいではないですか。みんなの知恵を寄せ合いましょう。なぜ慎重にしなかったのかわかりません。

あと説明責任については果たしていません。

以上、必ずしもうまくまとまりませんでしたが、動揺があるなかで、今の時点での整理ということになります。ぜひ再検討されるように強く強く求めます。

15日までに納得がいく対応がなく施行されたときは、私は、2003年9月15日を「公共鉄道の死んだ日」として一生忘れることはないでしょう。

ちなみに「関西のある鉄道会社」とは京阪のことである。今回、この関東地方の試みがもしかし
て全国的なことではないだろうな、と心配して関西の鉄道会社のHPを調べてみた。そこで見る
限りでは大丈夫であったが、唯一、京阪が独自に関東と似たようなことを9月22日から実施しよう
と告知していたのである。こちらは手続きの点で最低限のことは行い公開していること、内容の点
でも、本線はどの車両に乗っても必ず大阪寄りに優先席があること、優先席の数が比較的にで
はあるが多めであることなど、関東とは似て非なるようである。ただ、アンケートの期間の問題や、
またその結果に、「メールの送受信に迷惑を感じている者21%」、「電源を入れていることに迷惑を
感じている者12%」などとでているのが、私には決して少なくないと思われるのにこの方法に踏み
切っていいのかという疑問は残る。

 9月15日以降、静かに試みが実施された。文書を提出した3社については、10日以上も回答
がなく、催促している。今後も、抗議は継続するし、さらに問題点を整理したい。



通話しなければいいのか?電車内携帯の電磁波問題

【電車の中の携帯電話使用について、東北大学大学院理学研究科の本堂毅助手が離れた場所でも電磁波強度が反射により強くなることを「携帯電話による公衆被曝をめぐって」と題し、述べられている(日本物理学会誌Vol,58, No.6,2003)。英のBBC放送で2002年5月1日付けの報道がされ、日本ではこれに続き6月3日朝日新聞夕刊に「携帯電話、電源オンで、通勤電車に電磁波充満?」という見出しの記事になったもの(がうす通信55号)。論文から難しい計算式などを除いて、概要をまとめさせていただいた。】

 

携帯電話が通勤電車の中で使用されたというような状況で、その現実的な被曝強度についての物理的研究は少ない。最悪条件での見積もりも必要になる。十分多数の状況を想定し、慎重に一般的な結論を導くことが必要だ。しかし、携帯電話の使用は、一般に電磁波に関する知識を持たない不特定多数の市民の気まぐれな行動によるから、この予測は極めて難しくなる。意外な状況で、例えば朝の中央快速が事故で途中停車した場合などでも、集中的な利用が起こる。一車両内にある携帯電話の電波の総出力は、気がついてみれば、CS放送の人工衛星からの出力(数十ワット)をも超えうる状況なのだ。

 郵政省が医用電子機器への問題に関する公的指針の根拠とした「携帯電話端末等の使用に関する調査報告書」(97年4月、「不要電波問題対策協議会」著作)に市販の携帯電話と埋め込み式心臓ペースメーカーとの干渉の報告がある。これによると、800MHz帯のデジタル携帯電話(最大出力(バースト値)0.8W)が最大30cm離れたペースメーカーに誤動作を起こすことが報告されている。仮に電磁波が携帯電話から等方向に放射され、その放射効率を1とすれば0.8Wの放射源から30cm離れた場所での電磁波(等価ポインティングベクトル)強度は平均0.7(W/u)となる。国際機関ICNIRPが設定した1GHzでの公衆被曝に関する基準レベル(reference level)は5(W/u)である。ただしICNIRPの基準レベルは疾病等との関連のみを対象としているので、ペースメーカーやデジタル補聴器などの医用電子機器への安全性に対する目安とはなっていないことに注意しよう。また、西欧で最も厳しい予防原則を採用している国の一つであるイタリアでの被曝限度レベルは、人が4時間を超えて滞在する建物内で0.1(W/u)となっている。

 

 反射と重複の効果:鏡の部屋の照明と同様

電車内の被曝について、次元解析的なセンスでアプローチしてみよう。外から眺めればよく分かるように、電車は窓などを除けば、基本的に金属で作られている。電子レンジの内部表面と同様に、金属は携帯電話で使用されるマイクロ波帯の電磁波をほぼ完全に反射する。だから、電車内では先の報告書が仮定した自由境界条件の場合よりも、この反射の効果によって電磁波が強く、かつ車内全体にわたって蓄積される性質を持つ。

 具体的には電車内などの「系」に蓄積する電磁場の強度を電磁場エネルギーのバランス方程式で計算する。境界が反射性なので、単位時間あたりの電磁波出力の総量が一定の割合で反射されて繰り込まれる。すなわち境界の平均反射率が高いほど平均散逸率が低くなるから、エネルギーが「系」の中に蓄積される。電磁波はどこかで散逸されない限り、繰り返し反射され「系」の中を駆け巡る。

電車内で携帯電話を使用した場合の電磁波の反射を計算してみると、次のような結果になる。すなわち、反射がない状況下で1台の携帯電話から最大出力で発射された電磁波が30cm離れた場所で持つ平均電磁波強度が、電車内にあっては10台程度のオーダーの携帯電話が最大出力を発射することによって、車内全体に平均としてもたらされうる計算になる。

この計算はあくまで、利用者自身による吸収の影響などのファクターを無視した仮定の上での推算(エスティメーション)である。したがって、この計算値自身には、推算に由来する相当程度の誤差が含まれるのは当然である。しかし、不可解であるのは、物理学的にあまりにも自明である『反射と重複』の問題が、かかる分野に於いておよそ無視されてきた点にある。ファクターの程度問題がどうであれ、現実に携帯電話が使われる状況には、反射と重複の効果によって『理想的な』実験室で想定しているより遥かに高いレベルの被曝がもたらされるメカニズムがある。境界値問題と呼ばれる電磁気学において、「系」の境界での条件(いまの場合、反射)を無視することは許されない。マイクロ波にとって、金属の車体は可視光線の鏡に相当するし、携帯電話の数は照明器具の数と同等だ。日常的な感覚でも自明のメカニズムに従って、反射的な空間で被曝レベルが高くなる。電車内に限られた話ではない。

 

「ペースメーカーは22センチ以上離せば安全」という指針の前提は成り立たない

「携帯電話端末を植え込み型心臓ペースメーカー装着部位から22cm程度以上離すこと」という公的『指針』がある。この背景には、携帯電話の医用電子機器や生体への影響は常にその距離に依存して定まり、その影響は距離の二乗に反比例する、という前提がある。これは、携帯電話端末の安全性の議論において常に暗黙に仮定されてきたものだ。距離の二乗でその強度が減少するのは、電磁波のエネルギーが反射のない自由境界条件で「拡散」していくときに起こる結果だった。電磁工学の専門家や担当省庁の担当者は「電波は距離の二乗に比例して弱くなるから、反射壁が遠ければ反射の効果は無視できる」と繰り返し答えている。エネルギーの拡散と散逸という二つの初等的な概念が混同されている。壁が遠くなれば、同じ立体角内で反射に寄与する壁の面積は距離の二乗で『比例』する。したがって、反射の効果は、単位面積あたりの電磁波の強さであるポインテイングベクトル(距離の二乗に反比例)×反射面積(距離の二乗に比例)で何ら変わらない(ガウスの法則)。散逸が起こらない限り電磁波のエネルギーは保存されるから、境界条件によっては、無限の距離まで強い電磁波を伝えることもできる。小さなコンサートホールでも、大きなコンサートホールでも、壁や床、天井での反射特性がホール音響にとって本質であることは、何ら変わらない。ホールではステージ近くの席よりも、一番離れた席の方に大きな音が届くこともしばしば起こる。反射的な境界条件の系では、波の強度は「距離」のみでは正しく議論ができないのだ。電磁気学、むしろ波動一般での基本が忘れられている。

 このように、電子レンジの庫内と同様なメカニズムが働く電車内などでは、「携帯電話から何センチ離れれば安全」という単純な議論(ドグマ)は成り立たない。