がうす通信第103号(2010/6/21)


<インターフォン研究>ようやく報告 評価で議論

「携帯電話で神経膠腫40%増」 

携帯電話の使用と脳腫瘍のリスクとの関連を調べた世界最大規模の国際調査『インターフォン』の結果が当初の予定より4年遅れて、ついに『国際疫学雑誌(International Journal of Epidemiology)』(2010年5月18日)に掲載された。

この報告の評価をめぐって国際的に議論が沸き起こっている。国内では、事業者側の団体が「携帯電話の電磁波は安全」との宣伝に利用しようとしており、(社)電波産業会は早速この報告を紹介して「従って、電磁環境委員会はこれまでと同様に、携帯電話の電波によって健康影響が生じることはなく、安心して携帯電話をご利用いただけると考えています。」とHPに乗せている。しかし実際は世界の多くの研究者から、リスクを見えにくくするような報告書のまとめかたなどに対して痛烈な批判を受けている。批判の一つ、マグダ・ハヴァス博士(トレント大学)がEMFactsに投稿したものを以下に紹介する。

欠陥の多い『インターフォン研究』報告

調査結果からは「携帯電話を1640時間以上(1日30分間を10年間)使った人では脳腫瘍の一種である神経膠腫(glioma)の発症リスクが40%の増加する」ことを分かったが、結論としては「脳腫瘍のリスクの増加は確認されていない」とされた。
  インターフォン研究は今、研究の進め方、財源、査読や報告の仕方などでその欠陥をはっきりとさらけ出した。
  携帯電話と脳腫瘍に関して13カ国の科学者たちが関わり、これまでで最大規模(5117人の脳腫瘍のケース)と最高の研究費(2500万ドル)で進められたインターフォン研究は、初めの段階から不備があった。
  研究プロトコールは携帯電話の悪影響が少なく出るように作られていた。にもかかわらず神経膠腫が40%増すとの悪影響が報告された。「レギュラー・ユーザー」の調査では、その歪曲したプロトコールのせいで、「携帯電話の使用が脳腫瘍の発症リスクを防ぐ」(使用時間が増えるほど、発症率が下がる)という結果が出てしまった。

 携帯電話の悪影響を少なく出るように作られたプロトコールの例をあげよう。

(1) 「レギュラー・ユーザー」の定義が、「週に1回以上の電話を6カ月間以上した人」である。これほど少ない回数(少なくとも24回の使用にすべき)を設定すれば、影響は薄まり、結果は「影響なし」とでやすい。

(2) コードレスフォンを使う人は携帯電話の電磁波とほとんど同じタイプを暴露しているが、この研究では「暴露している人」に含めていない。

(3) 脳腫瘍は大人の脳で進行するのに10年かかる。しかし、この研究では10年以上携帯電話を使用した人の割合が10%以下と少ない。短い期間での携帯電話の使用では脳腫瘍が現れにくい。

(4)被験者は30歳から59歳に限定されている。これよりも若い人や年を取った人はより影響を受けやすいはずだが、この研究では排除されている。

この欠陥のある実験プロトコールが信頼のおけない結果を生んだことは明らかだ。インターフォン研究では「携帯電話の短期使用は脳腫瘍を防ぐ」と「長期使用は神経膠腫(glioma)の発症リスクを増加させる」という結果が出た。報告者たちはこれらの結果が両方ともバイアスと誤差によるものとしている。

これらの実験的欠陥は調査初期に気づいて、訂正されるべきだった。しかし、それはされていない。どうしてこの分野の一流の科学者たちがこのようなことを許したのか?資金援助という飴に誘われたのか?この研究は25%の研究費がワイアレス業界からの出資だった。

これらのさまざまな研究上の欠陥があるなら、この研究論文は専門雑誌に掲載されるべきではなかった。査読者はこの論文の拒否、または受け入れるには大きな改定を必要であることを忠告すべきだった。これは査読のプロセスに問題があることを示している。

インターフォン研究論文の要旨

「携帯電話の使用と脳腫瘍発症リスク」

【方法】

インタビューに基づくケース・コントロール研究。

2708人の神経膠腫(glioma)と2409人の髄膜腫(meningioma)の患者(症例群)、と健康な人(コントロール群)について13カ国(オーストリア、カナダ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、イスラエル、イタリア、日本、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン、英国)で調査。

【結果】
●神経膠腫(glioma)に関して、レギュラー携帯電話ユーザーでは、相関の確率(OR)は減少をみせた。(0.81) 髄膜腫(meningioma)に関しても同様。(ORは0.79)
10年以内の使用では相関の上昇は見られない。(神経膠腫(glioma)でORは0.98、髄膜腫(meningioma)は0.83。
1640時間以上で、神経膠腫(glioma)に関してORは1.40。髄膜腫(meningioma)に関しては1.15。神経膠腫(glioma)に関するORは脳の他の部分より側頭葉によりリスクが大きくなる傾向がある。また、携帯電話を当てる側が反対側よりも大きくなる傾向がある。

【結論】

全体では携帯電話の使用に伴う、神経膠腫(glioma)や髄膜腫(meningioma)の発症リスクは増加が見られなかった。重度の暴露レベルにおいて、神経膠腫(glioma)の発症リスクの増加の兆候があった。しかしバイアスや誤差が原因の解釈の妨げとなっている。携帯電話の長期ヘビーユーザーに起こりえる影響についてはさらなる調査が必要である。

ところで、原論文に関連する付録1(Appendix 1)と付録2(Appendix 2)が同じ雑誌に別々に掲載されているが、なぜこれらの付録は原論文に含めなかったのだろうか?それらは脳腫瘍のリスクレベルをより高く示したからか?

原論文の結果が髄膜腫(meningioma)の発症リスクの減少、あるいは携帯電話の影響なしとしている一方で、付録1(Appendix1)では髄膜腫(meningioma)のリスクは1640時間以上のデジタル電話の使用者で84%の増加を示し、デジタルとアナログ両方の携帯電話使用者であったり、使った電話のタイプが分からなかった人の場合では343%も増加があった。
  付録2(Appendix 2)では2年以下の「レギュラー・ユーザー」と長期のユーザーを比較している。神経膠腫(glioma)の有意な発症リスクの増加は2年から4年の携帯電話ユーザーで68%、10年以上で118%の増加があることを示している。原論文ではこれらの暴露カテゴリーは神経膠腫(glioma)の発症リスクの減少を示している。1640時間以上携帯電話を使っている人を対象にした場合、原論文では神経膠腫(glioma)は40%のリスク増加と言っているが、「レギュラー・ユーザー」と比較すると82%のリスク増になる。
  インターフォン研究のリーダーであり報告者のエリザベス・カーディスは、「最終的にもっとしっかりした結論を書くことができるまで、人の暴露を減らすことは妥当なことだろう」と述べている。彼女は若者のユーザーを含むモビ・キッズと呼ばれる研究を率いている。この新たな研究がインターフォン研究の欠陥を修正してくれること、そして、信頼のおける結果をもたらしてくれることを期待したい。(EMFact へのマグダ・ハヴァス博士(トレント大学)の投稿の抜粋をもとにまとめた)

リニア問題の現状と展望 リニア・市民ネット  川村 晃生

 リニア問題については本通信でもこれまで数回にわたって記事が掲載され、少しづつ問題点が明らかにされてきた。まず、伊藤洋山梨大学名誉教授の講演による学習会(於山梨県甲州市、09・2・7)が開催され、その際、問題に関心を持つ市民のネットワークが結成されたこと(『通信』95号、96号)、橋山禮治郎明星大学教授の講演による学習会(『通信』97号)、「リニア・市民ネット」からJR東海への質問書等の報告(『通信』98号)など、主だった動きが報告されてきた。 「リニア・市民ネット」としては、8月の長野県大鹿村の現地調査をふくめ、学習会を重ねることで理論武装することに力を注いできたが、一方事業を推進する側の最近の動きとしては、次のような点が挙げられる。(山梨のものに限る)

(1)09年9月、山梨リニア実験線の延伸に伴う黒駒トンネル工事で、山梨県笛吹市御坂町竹居地区の簡易水道の水源が枯渇し、住民100世帯に影響があった。暫定措置として上水道を接続したが、住民は「わき水を返して」と訴えている。

(2)リニアの山梨県内経済効果が140億円/年を超えるという、民間シンクタンクの試算が発表され、山梨県を訪れる人も1日あたり2万人増えるとされた。しかしこのあまりにも法外な試算には、各界から疑問視する声が相次ぎ、「根拠があいまいだ」「現実的な数字かどうか疑わしい」などの意見が出された。

(3)山梨リニア実験線の最後の未着工区間である浅川橋梁他工区の工事が11月上旬に着手されることになり、これで都留市の実験線以西の約16km区間ですべて工事が行われることになった。

 このような中で、11月14日、山梨県内の停車駅の候補地として名乗りを上げている笛吹市で、笛吹青年会議所主催によるリニア中央新幹線をめぐるパネルディスカッションが行われた。パネリストとして登場した荻野正直笛吹市長は経済効果や利便性を訴えたが、「通過点に効果はなく、100年後のために何をしてはいけないかを考えるべきだ」とか、「リニアに誰が乗るのか、リニアができて町が栄えるのではなく、駅を造らせてほしいと思うような魅力的な町づくりをすべきだ」といった識者の意見が相次ぎ、行政と市民との間の意識の乖離が目立った。このあたりにリニアはJR東海と行政とが主導し、冷めた市民がそれを批判的に見ているという構図が明らかになった。
 こうした状況の中で「リニア・市民ネット」もリニアを批判的に捉えつつ、単に学習するというレベルから実践的な活動に運動を拡大していかなければならない時期を迎えている。
 またもう一つは、リニア問題を政治レベルで議論してもらうことである。超党派の国会議員で構成されるリニア推進議員連盟なるものがあるが、そこでは、問題の本質は議論もされず、ただ歓迎ムードの中で事態は進行している情勢である。そこで民主党の参議院議員大河原雅子氏に面談の上、リニアの問題点を説明したが、引き続き社民党の辻元清美国土交通副大臣の秘書の方にもお目にかかり、大河原氏の場合と同様にリニアの問題点を説明した。今後国会議員の中でリニアに関心のある方々に集まってもらい、勉強会のようなものを開かねばならないと考えている。
 そしてそれらの活動に並行して、世論を盛り上げていくことも必要だろう。いまその第一弾として、来年の3月28日(日)に、東京で「リニア・市民ネット」と関係諸団体で大規模な集会を計画している。詳細が整い次第『がうす通信』の中でもお知らせするので、ぜひ多くの方々にご参集いただきたい。
 以上、簡単ながらリニア問題の現状と展望について記した。