がうす通信第123号(2013/10/12)


ドイツ 風力発電への反逆 あがる反対の声


 ((6月12日「シュピーゲル誌」SPEGEL ONLINE INTRENATIONALを翻訳)

 ドイツは自然保護地区のドイツアルプス麓の森林地帯に60,000基の風力タービンの新設を計画している。
 シュツッツガルトの北、果樹園とブドウ畑が続く美しい村ハウサレンホフに住むペーター・ヒッツカーは、庭のフェンスの向こうに建つ風力タービンになじめないでいる。風車塔は高さ180メートルで15キロ先からでも音で帰り道がわかる。ブレードがぶんぶんまわり、風車の摩擦音がはっきりと聞き取れる。「ひどいものだ。風力タービンの建設は、村を2分し、まるで戦争のようだ」と彼は言う。
 村に風力タービン、ユネルコンE82が建って一年が経った。開業式には、祝砲が轟き、神父が祝辞を述べた。しかし、誰もが喜んだわけではない。ロマン派詩人たちが讃えた田園風景がぶち壊されたと怒る人たちもいる。
 ハウサレンホフと同じような状況はドイツ中に見られる。 福島での原発事故の後、ドイツがいち早く脱原発の決断をし、再生可能エネルギー導入に本腰を入れた後、ドイツの16州では過剰な反応が起きた。北東部のブランデンブルグ州は風力発電所のために州の土地の2%の確保を計画。西部のラインランド=プファルツ州は風力発電量を2倍に、ライン・ヴェストファリアでは3倍に増加する計画だ。 
 ドイツは今後7年間で、風力発電量を31000メガワットから45000メガワットに、さらに今世紀半ばには85000メガワットまで増やすことを目指している。
 風力タービンは主要な沿岸部にはすでに建設されており、ターゲットは陸地に向かっている。モーゼル渓谷、アルガウ、アルプスの麓などの重要な観光地でさえ犠牲になる可能性もある。すでにコンスタンス湖とスタンベルグ周辺は予定地として指定され、現在、認可を待つばかりだ。

 後援者・反対者が2分

 環境保護論者、動物権利活動家は本来の自然の清らかさを守ることを主張する。いっぽうで、代替エネルギーの推進者、気象活動家は長い目でみた地球の生き残りを主張する。
 問題は、ドイツの新しいエネルギー政策に合致させるために、いくつの森林が犠牲になり、どれほどの水平線に風車が立ち並ぶか?慎重な行動と行き過ぎた行動の折り合いはどこか?納税者の金を無駄にするのは何か?
 この問題をめぐる議論は、ドイツ緑の党で何度もなされた。地球ドイツ友愛会のメンバー、イノチェ・ズ・グテンベルグは昨年、風力発電を支持する組織から脱退した。彼は「エネルギー崇拝による巨大風力発電」の害を緊急に警告すべきたと感じてきた。
 ドイツの700以上の市民団体が反対運動を結成した。スタンベルグの住民は風車がドイツの法律に違反していると法的に訴えた。ベルリンの北西のリベックの村の近くにはドイツ最大の風力発電所があり、83の風力タービンが並ぶ。しかし、地元の反対者たちは、彼らの家の価値が下がると怒っている。ベルリンの東に位置する地域ではすでに3100基以上の風力タービンがあるが、当局者はさらに3000の風車建設を望んでいる。住民は反対し、市民団体を立ち上げた。

 風車の巨大化

 住民たちの反対にもかかわらず、建設される風力タービンの高さはどんどんと高くなる。陸上では比較的風が弱いため、効率的なエネルギーや利益を得るためには風力タービンを高くする必要がある。上空100メートルでは風は常に吹いており、自然の風がテラワット(1兆ワット)もの電力を作り出すのに十分で、理論上は世界の人口の何百倍分のエネルギー需要をも賄える。
 将来はおそらく、風力タービンは約300メートルにも巨大化し雲をつくような大きさとなる。鳥類保護主義者による最近の研究では、いかに巨大なブレードが空気をかき混ぜるかを示した。鳥類学者のイェルグ・リッパートも巨大風力タービンの出現で鳥にとって恐ろしい未来が待ち受けていると言う。
 イギリスでは、巨大風力タービンは地域の住宅地から少なくとも3000メートルは離さなくてはならない。より人口密度の高いドイツでは、タービンをもっと家の近くに建てる。バイエルン州の南では、500メートルしか離れていない場所もある。サクソニーの東の州ではたった300メートルだ。 

風力発電をめぐる訴訟

 初期のころ、誰もがまだクリーンな風力発電にわくわくしていた頃、北部海岸エリアの農家らが彼らの小屋から250メートルの近さにタービンを建てることを許可した。そして、彼らは回転の音で豚小屋から家畜が逃げた時、巨額の補償金を受け取った。
 今や北ドイツでは「電力活性化」のため、多くの古い風車は新しいものにとりかえられ、よりパワフルなものになる。高さは50メートルから150メートル以上になり、飛行機がぶつかるのを避けるためにピカピカ光るライトがつき、風車が回転すると大きな音が出る。その結果、騒音への苦情がたえない。
 騒音による典型的な被害は目や喉に腫瘍ができることで、ハウザレンホフの風車からたった370メートルのところに住んでいるカラウス・ゼルツワンガーもその一人だ。彼は「まるで飛行機が離陸するときのようにブーンと大きな音をたてる」と言う。
 現在、裁判所はこれらの苦情を取り合わない。風力タービンは特別な権利を行使し、裁判所での闘いは骨の折れる戦いである。
 しかし、2006年、ミュンスターの北の町に住む一人の女性が裁判に勝った。家からたった270メートルのところに風力タービンが建設され、彼女は視覚的圧迫を伴う工業的な設備や機械は住居の近くに建設できないという「慎重であるための要求」を掲げて嘆願書を出した。長い闘いの後、彼女は裁判に勝ち、巨大な風車は排除された。
 ドイツ排気汚染制御?法によると、住宅地での使用による騒音レベルは夜間には45デシベルを超えないようになっている。西バイエルンの町、マークスハイムの女性は騒音被害をミュンヘン最高地方裁判所に裁判を持ち込んだ。彼女の家は花々が飾られた典型的な農家で、エネル?コンE-82の風力タービンから850メートルに位置していた。専門家は42.8デシベルの大きな音を記録し、音の「衝撃」を考慮してさらに3デシベル追加した。にもかかわらず、その風力タービンは今も夜10時から朝6時の間、速度を落として、利益なしの稼働をしている。
 ババリアのディッセンのアーミン・ブラウンス弁護士は、訴訟が次々に起こるだろうと予想する。「地方当局は既存の法律を回避しつつ、田園地帯を守ることを大事にしている」と言う。

 増える許容量とコスト

 これらの論争は風力発電産業にも厄介な時代をもたらしている。国が何千もの新しいタービンの建設と運営を目指しているにもかかわらず、現在、受注はめったにない。
 企業は長い間、自然エネルギーのため助成されている補償関税で潤ってきた。実際、風力発電産業は助成金で発展した。その結末が行き過ぎた許容量の巨大発電所である。
 国際市場の弱体化も産業界には痛手だ。風力発電の盛んな米国と中国ではともに将来の風力発電建設計画を抑制している。米国は風力の代わりにシエールガスを抽出するためのより安価な水圧掘削を進めている。中国では送電網に問題があり、それが風力タービンへの情熱を減らしている。
 ローワー・ザクソニー州北西部のステファン・ウェイル知事は最近、州の風力発電企業の10000のポストが危機状態にあることを心配している。デンマークのベスタス社はすでに1400のポストをカットせざるえない状態である。
 ドイツ緑の党のチェム・オズデマー議長は「環境保護はこの国にとって大きなチャンスであり、経済的効果がある」と主張するが、現実には、沖合の風力タービン建設や陸上の送電網への接続工事は困難を極め、当初の計算よりずっとコストがかかり、すべての物価上昇につながる。電気のコストは1キロワット3.5セントもかからないが、税金と環境コストで価格が高騰し、消費者は現在、1キロワット27セントも払っている。
 次の10年間で原発をすべて廃炉にするという目標への焦りと海上でのコストの上昇により、ドイツの風力タービンはいきおい陸上に建てられることになる。
 ただし、陸上でもそれほど価格は安くはない。電気を北から南へと運ぶために、国の送電網を完全に再構築する必要がある。2800キロに及ぶ超高圧線が新しく必要となり、さらに、7000キロの配電網も必要である。コストは100億〜200億ユーロと見積もられる。

 遅れと要求

 この大事業を動かす為に、ドイツ連邦政府は2006年に設備計画推進条例を導入、2009年の送電網拡張条例に引き継がれた。さらに2013年8月、ドイツ連邦議会は連邦要求計画条例を可決した。にもかかわらず、新規建設の電力網設備の実際の数は驚くほど少ない。計画されている電力網拡張のうち、現在268キロが完成し機能しているにすぎない。
 遅れの理由の一つには、猛烈な「電気スモッグ」反対者が110キロボルト送電線の新しい建設地各地で闘っていることがある。
 地下ケーブルは風力タービン反対者が要求しているものだが、地下に走る380キロボルト送電線には、熱をさけるために既存のものと同じほど大きな銅の支柱が必要であり、それは空中のケーブルの10倍はコストがかかる。
 風力タービンは激しい風があると、それを固定させる必要がある。このために2010年で127ギガワット/時間の電力が無駄になった。これは10万人の年間電力需要を十分にまかなえる電力である。
 核廃棄物処理費用もまた膨大である。廃棄処理の掘削作業の末に残る殺伐たる風景も誰も好まない。
 計画の見直しをする地域も出てきた。サクソニー州の東部地域では風力タービン拡張計画を縮小した。その西のテュリンジア州は森林での風力発電建設は望まない。
 しかし、ドイツに環境ユートピアを作ろうという大それた目標をもつ政治家たちはまだまだ多い。北のシェルチング・ホルスタイン州で環境大臣を務めていた「緑の党」のメンバーのロベルト・ハベックは風力発電支持者で自らを「エネルギー大臣」と呼ぶ。
 消費者が電力に高額な費用を払っている一方では、ぼろ儲けしている人たちもいる。コミュニティー風力発電のメンバーは6から9%の見返りに惹かれている。バヴァリアでは、風力タービン建設場所の土地所有者には賃貸料として年間5万ユーロ(65000ドル、およそ650万円)以上が入る。バーデン・ウルテンベルグのジャグスハウゼンの村に住むバロン・ゴッズ・ヴァン・バーリチンゲンはゲーテによって有名になった騎士の直系の子孫であるが、かれはEnBW電力会社と組み、自分の土地に11の風力発電所を建て、1キロヘクタール700ユーロもの金を手にしている。

 森を犠牲にする

 ドイツ政府は2020年までにドイツのエネルギーの35%を再生可能エネルギーで賄うことを目指す。
 風力タービンの反対者が最も恐れているのは森林の大規模破壊である。ドイツロマンティック街道の情緒いっぱいな北欧の松林は法の緩和によって破壊の手が忍び寄る。北ラインウェストファリア州の環境大臣を務めていた緑の党のヨハンネス・レメルは、彼が地域の森に2000近くの風力タービンを建設したいと述べた。ヘッセ州もまた何千ヘクタールにも及ぶ森林伐採を計画している。
 すでに着工している場所もある。ラインラント=プファルツにあるフンスリュックの低い山岳地帯にある町エレーンでは最近、高さ200メートルの新記録を打ち立てた風車の建設が話題となった。
 山岳地帯の森林の木々は伐採され、タービン用コンクリートの土台が置かれる。このような活動によって動植物にどんな影響があるかは誰にもわからない。ドイツ自然バイオ多様性保護連合は、これらの山脈の開発がアセスメントなしで行われることに反対する。

嘘と騙し

 風力発電所の建設が沖合から陸上に向かうことは、環境の理由だけではなく、経済的にも間違った方向であることが分かった。海では、年間4500時間稼働することができる。沿岸部では、3000時間。陸上ではせいぜい1800時間となる。
  ベシハイムを拠点にする会計検査役のワルター・ミュラーは風力発電会社の帳簿を検査している。彼によると、風力発電会社に委託されている専門家は弱い風の地域を、最高の風力の土地として記載する。十分なエネルギーを生み出さない風力発電所にもかかわらず、小規模な投資家には魅力あるファンドの利益が約束される。そして、結局、彼らの資産は食い尽くされるという。
 風力タービンの意義は本来、環境を守るためのものであるのが、問題は一筋縄ではいかない。誰もが核から離脱したいと願うが、その代償はどれほどかかるだろうか?
  バーデン・ウィーターンベルグの知事であり、ドイツ全土を統括する最初の緑の党のメンバーであるウィンフライド・クレッシューマンも風力発電に支持を表明したが戸惑いを隠せない。しかし同時に「他の選択はない」と彼は自分の決意を固持する。http://www.spiegel.de/international/germany/wind-energy-encounters-problems-and-resistance-in-germany-a-910816.html)  
 
(SPEGEL ONLINE INTRENATIONAL)