がうす通信第126号(2014/4/15)


「中央新幹線環境影響評価準備書に係る」意見 懸樋 哲夫

リニア磁界について  

 私は、これまでリニアの磁界の問題については勉強してまいりましたので今回この問題について公述させていただきたく思います。よろしくお願いします。 2013年12月5日JR東海 は山梨実験線の磁界を測定、その月の11日に結果を公表しました。
 この測定の結果について、翌日の山梨日々新聞は「リニア磁界、基準値下回る、JR東海測定公開で安全性訴え」との見出しで伝えました。この報道は重大な事実を見落としています。
 実験線での測定値公表は変動磁界について、「ない」ことにしています。最も肝心なところを測っていないこと、そして以前のデータも公開されていないのです。この問題点を整理し指摘したいと思います。

 準備書にデータがなく、そして検証がなかった

 これまで国交省もJR東海も磁界の影響についてまったく検証してきませんでした。昨年9月に出された準備書には実測値(計算値ではない)についてデータもなく、また遮蔽についての実験データもありませんでした。したがって当然ながらその数値についての安全性についての検証もしてきていなかったのです。 今回、なぜ準備書が出された後になって、実験線での測定を公開したのでしょうか?この肝心の情報の不備についてまずきちんとした説明が必要です。

周波数が測定されていない。

 リニア車内各所で、位置別に、周波数別に測定したもの、また、遮蔽材の効果を検証するために遮蔽した場合とそうでない場合の数値を表にして、これを公表すべきでした。いかに遅くとも準備書の段階で公表されなければならないデータです。山梨実験線で、遮蔽の効果を確かめるために測定をしていなかったはずはありません。
 このことを説明会などで質問すると、JR東海の答えはいつも「データはすべてホームページなどで公表しております」というものでした。実測数値は出していないのにこの答え方をくり返していたのです。
 そして、このほどようやく実測を行うということで、その手法や出てくる数値を注目しておりました。
 12月11日に公表された資料では、車内の各所、床からの高さ別に30センチ、50センチ、1メートル、1.5メートルと区分けしてミリテスラの単位で数値を出しています。そのことについてはこれまでになかったデータではありました。
 しかし問題は、測定値に周波数についての区別がなく、すべて<静磁界>としていることです。静磁界とは、地球の磁気などと同様のもので、変動磁界と区別されています。変動磁界とは時間変化する磁界です。そのリスクが論じられているのは変動磁界なのです。国際ガイドラインも変動磁界の数値は低く、つまり厳しく設定しています。
 JR東海が公表した測定結果として出している表で、基準値として右側に出てくる数値は400mT(ミリテスラ)で、これより実測値は「国際基準値より相当低かった」、という表示の仕方がされています。
 また、出された数値の欄に×をしていたり、空欄があったり、と最も重要な部分が多く消されています。
 このように変動磁界については測定値が公開されていないのです。
 仮に測定値の周波数が送電線から生じる磁界の場合のように50ヘルツであったら基準値は200μT(0.2mT)なので、この「基準値」を超えることになります。全体に甘いICNIRPの国際基準でも「変動磁界」については2000分の1に基準値を定めているのです。しかし、JR東海の報告の最後には
「原理的に車上て?は推進コイルによる変動磁界は、 推進力の変化による緩やかな変化以外生し?ません。」 と結び、この問題を片付けてしまっています。
   周波数別に測定値 上海トランスラピッドの車内変動磁界

 今回の測定のように「周波数がない」、「変動磁界が生じない、」というのはこの日には測っていないか、あるいは測っていても公表していないだけであり、「ない」ことはありえません。実際、上海で走っている、ドイツ製のトランスラピッドの車両の測定データは公表されています。それぞれの周波数に区分してです。

(「リニア中央新幹線に係る適切な環境影響審査のあり方に関する調査検討業務報告書」平成25年3月)株式会社ブレック研究所)http://www.env.go.jp/policy/assess/4-1report/file/h24_02-01.pdf

(データをまとめた表)

 

強度 μT

周波数

床上10センチ

25μT

5?50kHz

 

28μT

5?45Hz

 

9μT

50?300Hz

座面50センチ

15μT

5?50kHz

 

15μT

5?45Hz

 

3μT

50?300Hz

 この報告書は環境省のホームページに昨年3月に発表されたものです。周波数別に床上10センチで60μT(600ミリガウス)、50センチでは30μT(300ミリガウス)となっています。このようにトランスラピッドの周波数別の変動磁界は明確に示されているのです。そして各数値の周波数を5?50キロヘルツまでを3つに分けています。 
 しかし今回の山梨実験線の測定値がもしトランスラピッドの測定値のような周波数のところであったら、それは基準値を超えてしまうことになります。
 トランスラピッドは常伝導リニアで、日本のリニアは超伝導であるという違いがあるものの、どちらも磁力のプラスマイナスの変化をくり返すというメカニズムに変わりはありません。

 したがって中央リニアは上海リニアと同様の周波数の変動磁界が当然発生しているはずです。「生じません」と言うことで測定値を公表しないのは公表できない事情があるのではないかと疑いたくなって当然です。
 結局今回の実測は都合のいい「静磁界」という一面のみを拾い、「基準値以下」と恣意的に作られたものです。検証に必要な数値はまったく公開されることはなかった、と言えます。
 このような不備なレポートで、どうして安全性を確認することができるでしょうか。

0.3〜0.4マイクロテスラ(μT)慢性被曝で小児白血病リスク

「国際非電離放射線防護委員会」の報告の引用の中に、慢性被曝の長期的影響の可能性に関する考察・防護対策として書かれている部分では次のようになっています。

上述の通り、低い強度(0.3〜0.4μT以上)の商用周波の磁界への毎日の慢性的は曝露が小児白血病の リスク上昇と関連していることを、疫学研究は一貫して見出している。IARC(国際がん研究機関) は、そのような磁界を「発がん性があるかもしれない」と分類した。

準備書の中では、・・・しかしなか?ら、磁界と小児白血病の因果関係は確立されておらず・・・・・
と続き、この現実を消そうとしています。(環10-3-14)
 変動磁界の健康への影響については、世界中に多くの調査報告があり、日本でも文部科学省の報告があります。電力設備の電磁界の調査が0.4μTレベルでの小児白血病、脳腫瘍のリスクを報告しています。これらすべてが、囲みの3行で片付けられ、「因果関係の証明がない」と否定で終わっています。 

 ペースメーカーに関するガイドライン
ICNIRPは
心臓ペースメーカー等の医療機器についてガイドラインを0.5 mTとしていますが、「JR東海は1mTを満たすように設計している」としています。
 事業を推進する企業としては問題点を自分から露出することは避けようとしたのだろうと見られます。
 この問題は他の環境問題、自然破壊の問題同様、情報提供を事業者に任せるのではなく、第三者機関によって調査、検証するようにしなければならないのではないでしょうか。
 岐阜県の中津川市長が1月17日に出した知事あてに意見書を出しています。この意見書の中にも磁界について、「健康への影響や動植物の生育について懸念する意見があるため、第三者機関による安全性の再検証を行い、その結果を公表すること。」を求めています。
 長野県知事の意見書にも「山梨リニア実験線等で把握しているデータを開示し、その測定方法や測定条件を詳細に示すこと」とあります。

 リニアの磁界の遮蔽について 
 リニアは電力消費についても議論があり、事業者は在来新幹線の3倍の電力である、と説明しています。しかし浮かせて走行するために出来るだけ車体を軽くし、電力消費を抑えたいところ、磁界の遮蔽のために重い鉄を使用しなければならない、というジレンマにより、遮蔽の効果についても公表できない状況のようです。遮蔽材の重さや厚さについての質問にもこれまで答えていません。
 事業者は電力問題と磁界の遮蔽問題が相容れないために情報を出したくないのではないかと思われます。
 環境問題全般を考えれば 3・11の大震災の悲劇により、利便性をえるために東京都が地方に犠牲を強いることは今後許されないことをエネルギーに関係する事業について、いま基本姿勢として確立すべきときではないでしょうか。
 東京都はこのような事業者に対してすべての情報の公開を促し、そして第三者機関による検証を行ってくださることを念願しております。
 JR東海の社長は「リニア計画はペイしない」と明言しています。
 以上、これらの検証がないままに実用化はできない、ということを確実にしてくださるよう東京都の関係者のみなさんに強く訴えるものです。