がうす通信第68号(2004/8/15)


ハンガリー 携帯電話は男性の精子を弱める

【サンデー・タイムズ(ロンドン)2004年6月27日から】

 携帯電話を常に持ち使用している男性の生殖能力についての研究によって、かれらの精子の数が30%近くまで減り、妊娠の機会も減りうることがわかった。 この研究は、男性の生殖能力が携帯電話から発せられる電磁波によって弱められることを初めて示した。[ベルトにつけたケース]やズボンのポケットに携帯電話を入れている男性が最も危険性が高いと考えられ、携帯電話は弱い部位から離してかばんに入れるよう将来勧められることになりそうだ。 研究の詳細は火曜日[6月29日]にベルリンでの生殖の専門家らの国際科学会議で発表される。研究者らは221人を対象に携帯電話を多く使う人とそうでない人の精子を13か月間比較した。 その結果、ほとんどの時間携帯電話を身の周りに持つ携帯電話のヘビーユーザーは、13か月で精子が30%近く減少した。また生き残った精子の多くに、さらに生殖能力の弱った変則的な運動がみられた。 この研究で精子への影響が指摘されているが、科学者はこの結果を裏づけまたどう起こるかというメカニズムを確立するためにはさらなる研究が必要だと述べている。
 セゲド大学の産科学および婦人科学部門のイムレ・フェイス博士は、予稿で次のように指摘している。「携帯電話を長期的に利用すると、精子の生産や男性の生殖能力に対して濃度と運動性を悪化させるという負の影響が及ぶ可能性がある」
 これまでとは異なり、この研究では待機モードであっても携帯電話は影響を生じるとしている。通話していないときにも、携帯電話は最も近い基地局と接続するため常に発信している。これまでこうした発信は影響力をもつほどではないと考えられてきたのである。
 研究では、単一波長の携帯電話を使う男性を調べている。イギリスでは用いられる技術や周波数が多様で状況はより複雑である。しかし専門家は、もし生物学的あるいは健康の影響が存在するならば、おそらくすべての周波数で確認されると考えている。
 この研究結果については、今週ベルリンで開催される欧州ヒト生殖学会議で報告される。
 政府の移動通信と健康研究グループの議長を務めるイギリス・ノッティンガム大学のローレンス・チャリス名誉教授(物理学)は、これまで携帯電話の健康影響に関する研究は多く行われてきたが、結果は矛盾するものが多く確かな結論は得られていないと語る。
 「健康被害の決定的な証拠はないが、携帯電話はまだ15年ほどしか存在していない。多くの深刻な疾患は症状がでるにはそれ以上の時間が必要だし、この研究が影響を示しているとは言いがたい」
 チャリス氏は今年じゅうには携帯電話による健康影響に関する世界最大の研究の計画を発表するという。携帯電話会社から提供されるデータをもとに通話記録も追いながら、25万人を対象に最低でも15年をかけて調査をする。
 チャリス氏は非電離放射線の顧問グループの一員でもある。今年一月の報告書では、携帯電話の電磁波による精子への被害について理論的には危険性があるが結論を得るには不十分だとしている。
 イギリスの五大携帯電話ネットワークを代表する携帯事業者連盟の広報担当者は、健康への被害についての確かな証拠はいまだ存在していないと言う。「これまで続いた研究は悪い健康影響を確認していません」訳注:いくつかのウェブサイトなどでは、「携帯電話を使わない人に比べて30%減」としているが、原文に従うと「13か月で30%減少した」ということである。 

20回 欧州ヒト生殖学会 年会「ベルリン2004:科学プログラム」2004年6月29日 発表

携帯電話の日常的な使用とヒト精液の質の関係

はじめに:この数十年に確認された精子の諸性質の悪化は、環境要素によるものだと考えることができる。携帯電話の電磁場(~900MHz)によるヒトの精子形成への影響はいまだ研究されていない。我々の目的は、携帯電話の日常的な使用とヒト精液の状態との関係の可能性を決定することである。 
方法:調査はハンガリーのセゲド大学・産科婦人科で行われた。問診とともに、受診者が携帯電話を持っている期間、一日の間で体の近くで待機モードにしている時間(時間単位)、一日の通話時間(分)についての質問を行った。精液の分析はMakler精子計算盤を使って数えた。WHOの指針に従って、精子の濃度、運動性の精子の数、前進運動の精子の数を評価した。携帯電話を使わない人と非常によく使う人との比較を表した。統計分析はソフトウェア「SPSS11.0」で行った。 
結果:調査の期間13か月間で全451人について調べた。基準を満たし調査を完遂した221人の男性のうち、以下の三つについて有意の相関関係が得られた。(1) 待機状態の時間と精子の濃度(r=-0.161, p=0.04)、(2) 一日の通話時間と速い前進運動性または遅い前進運動性(それぞれ、r=-0.191, p=0.005; r=0.323, p<0.001)、(3) 待機状態の時間と速い前進運動性の精子の濃度(r=-0.218, p=0.005)。さらに、一日中待機状態の使用者と待機状態にしない使用者との間で精子の濃度に違いが見られ(59.11x106/ml vs 82.97x106/ml, p=0.021, N=51 vs 46)、また長時間の通話をする人と通話をしない人の間で速い前進運動性に違いが見られた(36.31% vs 51.34%, p=0.007, N=16 vs 61)。 
結論:携帯電話を長期的に利用すると、精子の生産や男性の生殖能力に対して濃度と運動性を悪化させるという負の影響が及ぶ可能性がある。相関係数を適切にするため今後さらに無作為対照調査が必要である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今回の発表については賛否があり、批判についても同時に報道(ロイターなどで)されている。
オランダ・マーストリヒト病院の教授でヨーロッパ生殖医学会元委員長のハンス・エバンスは「この研究は興味深い、しかし、明らかになったこと以上に疑問を生じる。この研究は介入研究ではなく観察研究であり、結果を左右する交絡を十分に考慮していない」と語った。またNRPB(英国放射線防護委員会)科学報道官は「この結果を注意深く考慮するが、男性の生殖能力の減退は携帯電話の普及よりかなり前から進行しており、その理由として多くのことが考えられている」と語った。


WHO電磁波プロジェクトワークショップ

「子どもの電磁波感受性」                  参加報告・上田昌文(市民科学研究室)

先の69日と10日にイスタンブールで開かれたWHOワークショップ「子どもの電磁波感受性」(WHO WorkshopSensitivity of Children to EMF Exposure”)に参加した。
WHOはこれまで『環境健康クライテリア』と題した一連のモノグラフを医療健康分野全般にわたって出してきたが、そのうちの3つが電磁波関連であった(第35巻「超低周波」1984年、第69「磁場」1987年、第137巻「300Hzから300GHz周波数帯の電磁波 1993年)。近年の電磁波健康影響問題への関心の高まりを受けて、低周波ならびに高周波の新たなクライテリア(健康リスクの評価ならびに対策の指針)の作成の任を担って1996年に発足したのが「電磁波プロジェクト」であり、その目的のために現時点までの科学的知見を集積してレビューを行い今後の研究の方向性を探る一連の国際ワークショップを開催してきた(1998年「電磁波被曝の心理的精神的影響」、1999年「電磁波の環境影響」、2002年「人体における有害な熱作用レベル」、2003年「電磁波問題への予防原則の適用について」)。今回の「子どもの電磁波感受性」はその最新版である。
幼い子どもが電磁波に被曝した場合、中枢神経系や免疫系、その他の器官が形成される時期に相当するだけに、深刻な健康影響が生じる可能性がある。特に環境ホルモンの作用の中には、発生のある特定の段階に被曝することでたとえ超微量であっても成人してからの(あるいは暴露者本人の子どもの)生殖機能に異変をもたらす場合のあることが分かってきたので、胎児や子どもに焦点をあてたリスクの捉え方がクローズアップしてきたという背景がある。また、生涯に被曝するトータルの電磁波量は、特に携帯電話の若年者への普及が著しいことを考えるなら、子どもが今の大人に比べて大きくなることは、十分に想定できる。2000年に英国の『スチュワート報告』(「携帯電話と健康」)で子どもの健康影響への懸念が示されて以来、各国で問題となってきた。
化学物質の問題を軸にして、子どもの健康リスクを捉えなおすための概念的な検討や個別のリスク因子に応じた再評価の研究が、たとえば次のような総説でなされている。
Brent,R.L. et al (ed.) The Vulnerbility, Sensitivity and Resiliency of Developing Embryo, Infant, Child and Adolescent to the Effects of Environmental Chemicals, Drugs and Physical Agents as Compared to the Adult “Pediatrics” April 2004, Vol.113:number 4
“Environmental Health Perspective”mini monographとしてウェッブでダウンロードできる次の10本の「こどものリスク論」関連論文Assessing Risks in Children 112:238-283 (2004)
Whence Healthy Children?    112:105-112 (2004)
http://ehp.niehs.nih.gov/docs/admin/minimono.html 
電磁波について、子どもが感受性が高く(sensitive)、健康被害を受けやすい(vulnerable)と想定する状況証拠的な理由はおそらく次のとおりだろう。
・環境リスク因子、たとえば化学物質、紫外線、放射線などについて、感受性が大人より高い例が知られている。
・超低周波磁界がIARC(国際がん研究機構)によって「発がんの可能性あり」という2Bの発がん因子にランク付けされたのは、小児白血病の疫学調査に基づいている
・神経系が発達途上にある
・脳組織の伝導性(電気の通りやすさ)がより大きい
・頭部での高周波の吸収率がより大きい
・生涯にわたる被曝量が(現在の)大人に比べて大きくなる

しかし電磁波に関して、感受性の高さを示す確かな疫学や実験の証拠はあるのか? それを裏付ける生物メカニズムはあるのか? あるいはその感受性の差をきちんと検出できるだけの計測と計量の方法が確立しているのか? さらに、証拠が十分確かではないとしても「差はない」と結論付けることが難しいとするなら、今後どういう対応をなすべきなのか? ――こうした点を第一線の学者たちが集って討論を交えながら検討しようというのが今回のワークショップである。

ワークショップの結論を述べるなら、それはごく平凡なことになる。すなわち、子ども(胎児も含む)の感受性が高いことを予想させる理由は種々考えられるが、電磁界に関してそれを裏付ける確実な証拠(とメカニズムの解明)は今のところ得られていない。よって、予防原則的対応をとりつつ今後は的を絞った研究プログラムを推進することが必要。しかし現時点では、子どものための特別の被曝基準をすぐに制定すべき根拠はない――ということになるだろう。低周波ならびに高周波のクライテリアについても、発行時期を明言するには至らなかった(
2007年までに「電磁波プロジェクト」が健康リスク評価をすべて終えることはホームページで述べられているが)。
 このワークショップの有意義だったのは、個別の研究発表の中で、いま進展中の新しいアプローチが仄見えていた点だろう。たとえば低周波被曝と小児白血病に関しては、「遺伝素因と環境中の因子の寄与を発症率の相違やパターンの違いからとらえる」方法が示唆されていたし、「染色体転座に関連した発現メカニズムの仮説」が提案されてもいた。携帯電話電磁波吸収量の計量モデルの再検討がさかんに論じられていること(頭部の大きさの変化、アンテナの位置、脳組織の変化、含まれている水分量の違いなど)からわかるように、子どもにとってのSAR値基準を検討する余地は十分にあることが納得できた。さらに、携帯電話電磁波被曝のモデル設定の困難(同世代で“携帯電話を使わない”という対照群がいなくなる状況、携帯電話自身が次々と改良されること、大人と子どもの使用パターンの違い、被曝の累積時間の計算方法がはっきりしないことなど)も議論の的になっており、携帯電話の疫学調査の必要性ははっきりしているのにそれがますます困難になるかもしれない状況を浮き彫りにしていた。

 なお、今年のWHO電磁波プロジェクトの会議では、次の2つが予定されている。
Mobile Communication & Health. Medical, biological & social problems
20-22 September 2004,Moscow,Russia
WHO International Seminar & Working Group meeting on EMF Hypersensitivity
25-27 October 2004,Prague,Czech Republic

今回のワークショップの概要についてはhttp://www.who.int/peh-emf/meetings/children_turkey_june2004/en/
招待講演者のプレゼンテーション資料はhttp://www.who.int/peh-emf/meetings/children_turkey_june2004/en/index1.html
ですべてダウンロードできる。
なお、総勢約120名、招待講演者25名、3分スピーチでの発表者8名であった。日本からの参加者は4名で、斉藤友博氏(国立成育医療センター・研究所)と大久保千代次氏(厚生労働省・国立保健医療科学院)はワーキンググループの一員であり、斉藤氏や兜真徳氏らの疫学研究はポスターセッションで示されていた。上田は「Power density of RFs of Tokyo Tower and its worrying health effect」と題した3分間スピーチを行った。■ 


ソニー・エリクソンとノキアの携帯がTCO規格不適合
【TCOのウエブサイトwww.mobilelabelling.com から】
TCOは10社の製造した25機種の携帯電話について品質・環境ラベル制度であるTCO’01の適合テストを行った。テストを行った機種の内ソニー・エリクソン製6機種、ノキア製4機種についてはどの機種も規格に適合しなかった。

テスト結果:
7機種が電磁波強度および人間工学の規格に適合した。
LG G7100Motorola C550Panasonic EB-GD87Panasonic EB-X70 、Sagem MYV-65Samsung SGH-V200Sharp GX20 

下記の18機種が規格に不適合だった。
LG G5300 LG G7000Vodafone Motorola V525Nec e808Nokia 3650Nokia 6230Nokia 6600Nokia 6610Samsung SGH-E700Samsung SGH-S300MSiemens M55Siemens SX1 SonyEricsson P800SonyEricsson P900SonyEricsson T610SonyEricsson T630SonyEricsson T68iSonyEricsson Z600

規格に適合した携帯電話はTCO Developmentが出版する推奨携帯電話機のリストで見ることができる。全ての製造者、通信会社、小売店や興味を持った人達が新モデルの適合性を確認できる。テストの結果は携帯電話の機能を損なうことなくTCOの規格に適合した機種を開発することが可能であることを示しているとTCO DevelopmentのCEOであるヤン・ルードリング(Jan Rudling)は語っている。