がうす通信第86号(2007/8/6)


WHO  『予防原則』に基づく措置を勧告

  疫学でのリスクは認めるも数値の基準値は示さず

 WHO・世界保健機関の『電磁波プロジェクト』は、電力設備の電磁場の健康影響に関するこれまでの調査の最終的な結論として「超低周波電磁場・環境保健基準報告No.238」を6月18日に公表した。日本では17日ごろ各紙に報道された。

 長年にわたり待たれていた結論ではあったが「基準」とは言ってもこの報告の中に何ミリガウスといった具体的な規制の数値が盛り込まれているわけではな
い。しかしこれまでのWHOのスタンスからすると、大きく踏み出した点がある。それは、まず一つには疫学調査で電磁場が微弱なレベルでの小児白血病のリスクを認めたことである。

 2002年のIARC(国際ガン研究機関)の「発ガンの可能性あり」の報告について「この限定的な証拠に基づく分類は、2002年以降に発表された2つの小児白血病の研究を加えても変わらない。」とし、0.3〜0.4マイクロテスラ(3〜4ミリガウス)の小児白血病リスクはプール解析が多数に基づいていることで得られた結果が偶然である確率は低いと思われる、としている。しかし、乳がんなど他のガンについては証拠が不十分で、実験動物研究などでも、超低周波磁場の被曝だけで癌を起こすという証拠は不十分である、ということも記されている。

そしてもう一つ大きな点は「予防原則」を推奨していることだ。『たとえば、主要な超低周波電磁波の発生源の位置を決める際、産業界と地方行政と市民との間でより良い協議をはかるなど地方当局は、超低周波電磁波を発生する施設の建設計画の立て方を改善すべきである。』と記されている。つまり『電力の健康、社会、経済的利益が侵されないという条件の下で、曝露を減らすための極めて低コストの予防的措置を講じることは合理的であり、正当化される。』というのが結論らしい。

この内容は報告の概要の中の1.1.12「防護方法」で以下の通り詳しく記している。

1.1.12    防護方法

 曝露を軽減するために、その他の適切な予防的措置を講じることは、合理的で正当である。しかし、電力は健康、社会、経済に明らかに利益をもたらしており、予防的アプローチによってこれらの利益が損なわれるべきではない。さらに超低周波磁場と小児白血病との相関の確証が弱いこと、仮に相関があるとしても社会全体の健康への影響が限定的であることの両方を考慮すると、曝露の減少が健康にもたらす利益は明確ではない。それゆえ、予防的措置のコストは極力、低くすべきである。曝露の軽減を実施するためのコストは国ごとに異なるので、超低周波電磁場の潜在的リスクと対策コストとのバランスをはかるための一般的な勧告を出すことは非常に難しい。

上記の観点から、次のような勧告が出された。

     政策立案者は、一般市民と労働者の両者にむけて、それぞれの超低周波電磁波曝露に関するガイドラインを設定すべきである。曝露制限と科学的検証の原則を検討する際の最良の情報源は、国際ガイドラインである。

     施策立案者は、一般市民、あるいは労働者用の曝露制限値を超えていないことを確かめるために、すべての電磁波源について電磁波測定を行うなどの超低周波電磁波防護プログラムを確立すべきである。

     電力の健康、社会、経済的利益が侵されないという条件の下で、曝露を減らすための極めて低コストの予防的措置を講じることは合理的であり、正当化される。

     施策立案者、地域計画担当者、製造業者は、新たな施設の建設、また家電製品を含む新しい設備機器の設計に際しては、低コストでの予防的措置を講じるべきである。

     より高い安全性、低いコスト、あるいはまったくコストがかからないなどの利点があるとすれば、設備や機器からの超低周波被曝を軽減するための技術的手法の変更について検討すべきである。

     既存の超低周波電磁波源の変更を検討する際は、安全性、信頼性、経済的観点と同時に、超低周波電磁波の減少も考慮に入れるべきである。

     地方当局は、新たな施設の建設、および既存の施設への再配線の際、安全性の確保と同時に、意図しない地電流を減少させるための配線の規制を強化すべきである。配線の違反や既存の問題をあぶりだすために講じる予防対策はコストが高く、妥当とは言いがたい。

     国家当局は、すべての投資家が十分に情報を与えられた上で意志決定できるように、効果的でオープンな情報戦略を実施すべきである。それには個々人がそれぞれの曝露を減らすためにはどうしたらよいかという情報も盛り込むべきである。

     地方当局は、超低周波電磁波を発生する施設の建設計画の立て方を改善すべきである。たとえば、主要な超低周波電磁波の発生源の位置を決める際、産業界と地方行政と市民との間でより良い協議をはかるなど。

     政府と産業界は、超低周波被曝がもたらす健康影響に関する科学的証拠の不確かさを減らすための研究プログラムを推し進めるべきである。

 

WHO報告の意義と限界                    

 WHOはこれまで国際会議を重ねては結論を出すといいながら、延々と最終報告を引き伸ばしてきた。煮え切らない姿勢から日本などでは、いいように勝手な解釈を許し、電力会社の専横も許すことになってきた。

この報告は高圧線などの低いレベルでの電磁場のリスクを認め、「予防原則」に言及していることで一定の評価は出来るだろう。 少なくとも、これまで「50000ミリガウス(あるいは5000ミリガウス)がWHOの基準」などと臆面もなく語ってきた電力会社の主張はもはや完全に通用しなくなった。

さらに勧告の中では電力設備の建設計画を立てる際は、その位置を決めるとき、産業界と地方行政と市民との間でより良い協議をはかるなどして、現状を改善するようにと言っている。

今後とも都合のいい解釈をしてごまかすことは謹んでいただきたい。「ガン」「疫学」の項で以下のような記述がある。

1.1.10 癌:電磁波が「人体に対して発癌の可能性がある」とする国際がん研究機関(IARC)の発癌分類(JARC,2002)は、2001年以前に入手可能なすべての資料に基づいている。今回のEHCモノグラフのための文献レビューは、おもに前回のIARCのレビュー後に発表された研究に焦点を絞っている。

疫学:IARCの発癌分類は、小児白血病に関する疫学研究で明らかにされた電磁波との関連性に大きく影響を受けた。この限定的な証拠に基づく分類は、2002年以降に発表された2つの小児白血病の研究を加えても変わらない。IARCモノグラフの発表後、子供の癌に関する他の証拠は、不十分なままである。IARCモノグラフに続いて、超低周波磁場の被曝における成人女性の乳癌リスクに関して多くの論文が発表された。これらの研究は、それまでの研究より規模が大きく、バイヤスはあまりかかっていないが、全体としては電磁波の乳癌リスクには否定的である。これらの研究により、超低周波磁場の被曝と女性の乳癌リスクの相関を示す証拠は極めて弱くなり、この種の相関の立証を困難にしている。

 

 成人の脳腫瘍と白血病の場合は、IARCモノグラフの後にいくつかの新しい研究が発表されたが、電磁波とこれらの病気との相関を示す総合的な証拠が不十分であるという結論は変わらない。他の病気や他のすべての癌に関しても、証拠は不十分のままである。

 

 小児白血病についてはIARCの「発ガンの可能性あり」の分類をはっきりと認めている内容で、発ガン総体の原因については「証拠は不十分」であった、と結論している。

またこの報告の内容に沿う形で始められた経済産業省のワーキンググループもこれまで同様の電力会社の主張を支援するのみのまとめ方は常識的に考えれば出来ないはずだ。これまで微弱な電磁場は問題なし、だから基準もなし、で済ませてきた国も基準が必要なところまでリスクの存在を認めざるを得なくなっている。
しかし、報告では3〜4ミリガウスのレベルでの規制値を示しているわけではなく、予防原則についても費用をかけない程度で、との断りがついている。もともとWHOは規制値を作るようなつもりはないのだ。これが関の山であることは当然予想の範囲内だった。各国政府の思惑を無視しない国際機関なのだ。

この限界については以前から国際的な批判があった。「電磁波プロジェクト」の責任者であったレパチョーリ氏は企業との関係について抗議を受け、退職してすぐに電力会社のコンサルタントとして雇われたことも米の電磁波専門誌「マイクロウエーブニュースの編集長ルイス・スレシン氏から痛烈に批判されている。WHOという組織が各国政府や電力産業の思惑を無視しない国際機関なのだということも言える。

日本国内で、この内容を勝手に解釈し、これまでのICNIRPのガイドラインをそのまま適用して1000ミリガウスでOKなどというような結論に導くようなことがあればそのような基準値はないほうがましというものである。

電力会社となれあいの経済産業省がお抱えのワーキンググループの中で、消費者の健康問題を真剣に討議するのかまったくあてに出来ない状態だ。我々の事前の申し入れも拒否された(前号)。

出来ることは、始まった日本での規制値の制定、予防原則適用の議論を可能な限りオープンにし、文部科学省の研究報告評価の際に行われたような隠蔽や捻じ曲げはもう許されない。

実験動物研究の報告についても引用しておく。    (懸樋)

実験動物研究

現在のところ最も一般的な小児白血病である急性リンパ芽球性白血病の適切な動物モデルは存在しない。ラットを使った3つの独立した大規模な研究が行われたが、自然発生的な乳癌の発生において、超低周波磁場の影響を示す証拠は出ていない。齧歯(げっし)類のモデルを使った研究のほとんどは、白血病やリンパ腫に関して電磁波の影響がないことを報告している。

齧歯(げっし)類を使った幾つかの長期的な大規模研究でも、今のところ白血病、乳癌、脳腫瘍、皮膚腫などのあらゆるタイプの癌に関して一貫性のある増加は見られない。

 多数の研究で、化学的に誘発したラットの乳癌における超低周波磁場の影響が調べられた。一貫性のない結果が出たことに関しては、実験手法の全体あるいは一部の差異 ―たとえば特定の亜種を使うなど― が少なからず影響した可能性がある。化学的に誘発した、あるいは放射線によって誘発された白血病やリンパ腫のモデルを用いた超低周波磁場の影響の研究では、ほとんどが影響を否定するものだった。前がん肝臓や化学的に誘発した皮膚腫や脳腫瘍の研究でも大部分が否定的な結果だった。ひとつの研究が紫外線による皮膚腫瘍の発生が超低周波磁場によって増加することを報告した。

 2つのグループは、生体の超低周波磁場の被曝の後に脳組織のDNAらせんの損傷の度合いが高まることを報告した。しかし、さまざまな種類の齧歯(げっし)類の遺伝毒性モデルを用いたその他のグループの研究では、遺伝毒性的な影響を示す証拠は見つからなかった。癌と関連のある非遺伝毒性の影響の調べた研究の結果は決定的なものではない。

全体としては、超低周波磁場の被曝だけで癌を起こすという証拠はない。超低周波磁場が他の発がん物質と組み合わさって癌の成長を促す可能性があることを示す証拠は不十分である。

試験管内研究

 一般的に、細胞における超低周波電磁波の影響を見る研究では、50mT以下の場合、遺伝毒性の誘発は見られない。注目に値する例外としては、35μTという低い電磁波でDNAの損傷を報告した最近のいくつかの研究がある。ただし、これらの研究はまだ評価の途中の段階にあり、これらの知見に関するわれわれの理解は不完全なものである。また、超低周波磁場がDNA損傷の因子と相互作用する可能性を示す証拠も増えつつある。

 超低周波磁場が、細胞周期のコントロールに携わる遺伝子の活性化をうながす明確な証拠はない。しかし、全ゲノムの反応を分析する総合的な研究は、まだ実施されていない。その他多くの細胞に関する研究、たとえば細胞増殖、アポトーシス(細胞の自死)、カルシウム情報伝達、悪性変性などの研究では、一貫性のない結果、あるいは決定的でない結果を得ている。



東電の株主総会で「オール電化」CM問題を議案提案

 東京電力の株主総会が6月26日港区の「ザ・プリンス パークタワー東京」の地下2階にあるボールルームにて開催された。

 例年、株主総会には「脱原発・東電株主運動」が原発の問題を追及している。今年も賛同する671人の株主によって4つの議案提案が行われ、「取締役の報酬の公表」「不正防止制度の新設」「耐震設計審査指針の改定に伴う原子力発電事業の再検証」などの議案に加え、「広報活動」についてとして、ひんぱんにテレビで繰り返される「オール電化」のCMについてやめるよう提案し以下の通り趣旨説明を行った。

第10号議案についてご説明します。開催通知の18ページをご覧ください。
第10号議案 広報活動
我が社は公正な広報活動に努め、消費者に誤解を与える表現をしない。
 この議案は具体的には、最近の我が社によるオール電化の広報活動を念頭に置いたものです。
 我が社はこのところテレビCMなどで「オール電化」を繰り返し流し、クリーンなイメージとともに「エコ」「エコ」と環境にいいかのように言っています。
 電力料金のシステム、家庭でのエネルギー消費の選択としてそれは正しいCMと言えるものなのでしょうか。もともと調理や暖房などの熱源に電気を使うのは効率の良いものではありません。
 電力のエネルギー源から転換する過程でのロスが大きく実際の効率はガスにかないません。
 オール電化にして電力で湯沸しするのは結局CO2排出に拍車をかけるシステムなのです。温暖化防止に役立つようなことは決してありません。
 IH調理器についても同様です。都市ガスのほうが効率がよいという試算がされています。
 さらに問題は、その電磁場による健康への悪影響が懸念されることです。専門の計測機関で計測した結果では、体の位置で100ミリガウスを超えるものもあります。つい先日、WHO(世界保健機関)は高圧線などの電磁場4ミリガウスほどの居住環境でもリスクがあることを認める報告を正式に出したと報道もされたところです。このリスクの数値よりはるかに大きな磁場をIH調理器は発生させています。IH調理器を使用して調理する人は、数値だけ見ればWHOでもリスクがあると認めた数値の数十倍もの電磁場をあびてしまうことになるのです。
 オール電化で深夜電力を利用した温水器を使うことで、トータルの電気料金が下がるしくみも我が社は提供しています。これは出力調整のできない原発の余った夜間の電気を使わせるためのものです。料金体系を変え価格を下げて経済的というのと、環境保全としてCO2排出量などを節減するのとは意味が違います。ゆうべの深夜にわかしたお湯を使うのは、普通の家庭なら翌日の夜です。この熱損失は平均25%と計算されています。また冷房は暑い日中にしか使えないので夜間電力は使えません。これは安い料金が省エネとイコールで結びついていないことを表しています。オール電化にすることで値引きというような料金体系は環境保全と逆行するものです。
 このような「オール電化」の推進こそが環境問題の改善を間違った方向に導いています。
 電磁場の安全性への疑問にはクリーンという言葉でふたをして、エネルギーの浪費の問題には「エコ」という言い方でごまかして「オール電化」を宣伝するのは、もうやめましょう。

 以上のような理由で本議案を提案します。株主の皆さんのご賛同をお願いします。