がうす通信第91号(2008/6/1)


町田市 東急田園都市線すずかけ台変電所建設問題

【東急すずかけ台変電所対策協議会より寄稿

〔経緯〕                 

 東急田園都市線では、平成13年に田奈の変電所に落雷があったが、その後の東京急行電鉄(株)(以下「東急電鉄」という)側の対応のミスにより施設全体が火災による重大なダメージを受け、約1週間に亘り、定時運行ができないという事態に陥った。この事例を原因として東急電鉄は、今後同様の事態が起こった場合の対策として田奈、中央林間間の変電所体制を3箇所(田奈、すずかけ台、つきみ野)にしたい(1箇所が止まっても他の変電所で電車の運行は可能とする)として、本件すずかけ台変電所の建設を田園都市線のすずかけ台駅の駅中に企画した。

しかしながら、この建設計画は、平成18年3月の段階で社内決定がなされていたものであるが、東急電鉄は、その情報を一切公開せず、平成19年2月2日には町田市に対して、当該建設場所が環境協約の意味合いも持つ南つくし野の建築協約の適用地域であり、事前に南つくし野自治会の建築協約委員会への建築の申請を行わなければならない立場にありながらも、その手続きをせずに、町田市に建築確認の申請を行った。また、この高圧変電所に関しては、町田市が規定するいわゆる紛争予防条例に基づく建設地への事前の「お知らせ看板」の設置についても、建築物の高さが、条例に規定される10メートルには20センチメートル足りず9メートル80センチメートルしかないとして設置すら行わなかった。なお、この確認申請に対しては、同年5月2日に町田市から建築確認が下りたが、確認許可済のプレートの掲示をその後することもなく、さらに5月15日に東急電鉄が行ったプレス発表においても、変電所の8箇所の増設を公表してはいるが、この際増設場所としてのすずかけ台駅中の公表は行うこともなかった。

 この間、平成18年2月にこの高圧変電所建設予定地から30メートルの地点にファミリー・タイプのマンション(戸数96戸)の建設が着工され、平成19年の6月に竣工され、7月に全戸入居が行われている。しかしながら、東急電鉄は、この高圧変電所の建設計画について、この建主にも、ましてやその契約者にも一切情報を秘匿し、マンションの建築期間中を通して開示を行うことがなかったため、当該マンションの契約者は、目の前に高圧変電所が出来るなどということを一切知らされることなく住居の購入をすることとなったものである。

東急電鉄は、平成19年8月29日に南つくし野自治会の役員会に来場し、20名程の役員に対して当該変電所の建設の説明を行ったが、この説明においては、工期と建設時の工事車両の出入路等の説明が中心であり、施設自体が高圧変電所であるという内容の説明は一切行われなかった。しかしながら、特に前記マンションと変電所の距離が近いことを憂慮した自治会長から、この時点で当該マンションに対しては、工事着手前に説明をしておいて欲しいという要請があったにもかかわらず、東急電鉄は、その要請すらをも無視して、工事にその後着手したものであった。東急電鉄は工事着手後、唯一すずかけ台駅の下り線ホーム先端付近に「すずかけ台駅ご利用の皆さまへ」というポスターを貼り、当該場所に「変電所の新設工事を行う」との表示をなしたわけであったが、これ以上の標記は一切なかったため、住民がこの高圧変電所の建設計画に気がつくのは、10月中旬になってからであった。10月11日の夜、偶然、下り線ホーム先端で電車を降りた前記マンションの住民がこの標記に気がつき、東急電鉄に問い合わせをして、10月17日に東急電鉄の担当者から、内容の説明を聞くことにより、初めてこの高圧変電所の建設計画が地域的にも明らかになることになったのである。

この説明において住民から、「(マンション)居住者の多くは乳幼児を抱えており、そのような施設が建つのであれば、このマンションを購入することはなかったこと。何故、建主又は契約者対して、事前に計画がわかるような手続きを取らないのか。すでに「たまプラーザ」においては、高圧線鉄塔の移設に関し、住民との間で紛争があり、その計画を東急電鉄は白紙にしているものであり、そういう経験を踏まえれば建主又は契約者対して、その計画を事前に知らせるのが当然ではないのか。まして東急電鉄では、当該マンションの広告をすずかけ台駅中と隣駅の南町田駅に展開してもおり、そのような形で購入への協力も行っていながら、契約者が退去を実質できなくなった段階で不動産取引上も「迷惑施設」「嫌悪施設」であり、周辺不動産の価値下落をももたらす、高圧変電所を突然しかも極力わからない形で近接して抜き打ち的に建てるなどということは、信義に反するのではないか」という趣旨の内容を質問したものであるが、この質問に対しては東急電鉄側担当者は、一貫して無言のまま対応するという状況に終始した。

この会談後東急電鉄側は工事に関しては、一時停止する旨を住民側に伝えてきたものであるが、建設については、マンション住民に説明会を開いて東急電鉄側が住民の理解を得たと判断すれば建設に着手するとの主張をなしてきたこともあり、マンション住民側から建設の白紙化を求める管理組合総会の決議がその後なされるに至った(東急電鉄側はこの決議の申し入れを拒否)。この時点で当該マンション以外の地域住民からも「代替地もあると見られる地域において何故、地域の顔であり人々の参集する駅中に高圧変電所を造る必要があるのか?」という疑問が出され、地域の老人会、商店会等やすずかけ台駅の乗降客も加わり、マンション住民らとともに一連の疑問点を解明し、建設計画の見直しを求める「東急すずかけ台変電所対策協議会」(以下「対策協議会」という)が昨年11月に設立されたものである。  

東急電鉄側は、その後の対策協議会との交渉において建設に当たり建築協約委員会への届けを行わなかった理由を問いただされると「建築協約の存在など知らなかった」と主張し(しかしながら、この主張は、建築協約の存在を示す看板が約30年前から、すずかけ台駅前には存在しており、東急電鉄の職員は毎日この看板を見ている以上、主張自体に合理性を欠くことは明らかである)、建築協約適用地域においては建築協約の違反建物を建設する場合、近接する住民の同意が当該地域では慣例上必要になる旨の住民の主張に対しても、「建築協約は自分たちは守る由縁はないこと」を趣旨として主張するとともに、「何故隠して高圧変電所を建てようとしたのか?」という質問に対しても、「(地域も含め)法的な説明義務はない」「(高圧変電所は)安全な施設なので説明する必要はなかった」などの合理性のない良識を逸した発言を行うとともに、「どういう意思決定過程により建築協約のあるすずかけ台の駅中に高圧変電所を建てる予定としたのか?」という質問に対しても、「電気的なロスが少ない」等の電気的効率面を回答する以外に回答はせず、論点のすり替えに終始しているという状況にある。

対策協議会側は、前記2つの質問とともに「住民の理解を得て建設を進める」とする東急電鉄側の言うこの「理解」の基準を再度示すようにも求めていたが(東急電鉄側は以上3つの質問に対して合理的な回答を出す旨を昨年末に対策協議会に約束していた)、東急電鉄は、これらに対して全く合理的回答を行はない状況を継続させるとともに、「自らの行為は何らコンプライアンスに反するところはない」との実質的主張が加わるに及んだ。ここに至り対策協議会は、東急電鉄の監査役5名に対して一連の事実を報告するとともに会社法に基づくコンプライアンス態勢による適正な対応を行うように求める書状を本年3月末日に郵送したという状況にある。

〔弁護士による講演 5月18日〕

講演会は、以上のような事情を背景として、この3月末日に郵送された前記監査役に対する書状の持つ意味を中心として5月18日(日)午前10時からすずかけ台駅前のすずかけ会館において、対策協議会の代理人に就任いただいている三井法律事務所の大塚和成弁護士を講師として「東急すずかけ台変電所建設問題とコーポレート・ガバナンス及び内部統制との関係」という演題で行われたものである。

この講演会において大塚弁護士は、「企業経営者は、株主から会社を預かっているものでありブランド価値を含む企業価値を最大化する責任を負っている。この責任を如何に果たさせるのかがコーポレート・ガバナンスの問題となる。そしてこのブランド価値を含む企業価値を高めるためには、社会良識や倫理的側面も加味した広義のコンプライアンス態勢の構築が不可欠であり、今会社法は会社に対して「取締役及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制の整備」(いわゆる会社法上の内部統制)を求めており、東急電鉄はこの内容を受けて、その遵守のために「東急グループコンプライアンス指針」及び「東京急行電鉄行動規範」を取り決め、取締役はこれらの規範をも含めて法令遵守態勢を構築しなければいけない法的な義務を有することになっている」ことを説明した。そして今回の事案の場合東急電鉄の鉄道事業本部は、「「情報の提供」、「地域社会との協調」、「他者の財産や権利を最大限尊重」、「法令等の趣旨にも違反しない」等の様々な点で両規範に違反するところがあり、これは内部統制構築義務違反となり、取締役会が宣言する「東急ブランドの保護」という面で、明らかにその毀損(世間に宣言していることと行っている内容が全く反対である等の点より)を社会的に起こしていると評価でき、監査役はその是正を行う義務が生じている」ものであるとした。またその内部統制構築義務違反に関しては、「監査役は対策協議会から書状により、その内容を認知した以上、監査のうえ、期末の監査報告書に記載する必要性が生じているとも考えられる」ということが指摘された。そして「少なくとも今後もこのままの状況を放置するならば、取締役及び監査役は株主から善管注意義務違反も加味された責任追及の訴え(代表訴訟)の提訴を受ける危険性とさらに状況の評価如何によっては、取締役及び監査役は会社法第429条の個人責任を追及される可能性」をも指摘したものである。また、「東急電鉄の取締役会が内部統制構築義務に関して、表面上の規範のみを作成すれば足りると考えていたのならば、それは大きな間違いであり、会社法の内部統制構築義務とは、その運用を含むチェック体制も含めて評価される。つまり、建前だけではだめで、本音と建前の使いわけが認められないのが内部統制というものであり、この点から見て今回の事案は、日本の上場企業がどこまで内部統制の意味を理解しているかの重大な試金石にもなっている」ことが説明された。

〔建設問題の注目点〕

すずかけ台駅は、今回の建設問題により、今や日本のコンプライアンス及び内部統制制度等の上場企業における理解の試金石として、もっとも注目を浴びる場所になったといってよいのではなかろうか。本件は、電磁波の健康影響問題に止まることなく、日本の民営鉄道の代表企業である東急電鉄がまさに「鼎の軽重を問われている問題」ともいえ、東急電鉄が常日頃強調してきたCSR(企業の社会的責任)の取り組みの真偽も含め、今後の動向に一層の社会的関心が集まるべき内容といえる。事案の動静に注目をお願いしていきたい次第である。