がうす通信第97号(2009/6/8)


「風力発電−知られざる恐怖−」(3)

「風車問題伊豆ネットワーク」 覚張 進

3、低周波音による健康被害

 1)音と振動

空気を媒質として伝播する音響エネルギーは、空気密度の変動波(疎密の波=空気振動=圧力変動波)として伝わる振動エネルギーである。音響エネルギーは生体を含めてさまざまな物体のそれぞれが有する固有振動数と共振関係にある。したがって音という聴覚現象についても、振動エネルギーとして伝わる音響は、聴覚システムにおける鼓膜や耳小骨などを振動させ、蝸牛においてリンパ液の振動に置き換えられ、蝸牛基底膜上部のコルチ器で電気信号に変換されて神経系を通して脳で音として知覚される。その周波数範囲は前述したとおりであるが、コルチ器で電気信号に変換する部位は周波数ごとに異なるとのことである。

聾学校では体育や運動会の練習時間によく大太鼓が使われる。言葉の代りに大太鼓の音で指示や合図を与えている。聴覚システムに何らかの障害があって音の聴取が困難な子供たちであるから、残されている聴覚機能を含めてであろうが、言葉の代わりに大太鼓の音の響きや振動を身体で感じとらせ指示や合図の伝達手段にしているのである。音は聴覚部位を含めて体全体に響き、児童は振動感によって指示や合図を理解することができる。大太鼓の音は非常に低く響きもよい。強く叩けば大きな音も出る。残響の長い低くて大きな音は児童の体に振動として伝わるはずだ。大太鼓の音は100Hz以下の低周波数域の低周波音である。

振動エネルギーとしての音響は、固有振動数による共振作用により食器類や家具などをがたつかせ、建物の壁や床を振動させる。打ち上げ花火の音や火山の噴火音で窓ガラスが振動するのはよく経験することだ。大島が噴火したとき、噴火音は50キロ以上も離れた三浦半島の知人宅の窓ガラスを大きく響かせたという。噴火音は衝撃音とも考えられるが、衝撃的ではない音であっても、その周波数によっては物体との共振により食器や家具、窓などをがたつかせ振動させる。こうした振動現象を引き起こすのは、聴覚的には聴こえない、あるいは聴こえにくい音、つまり、鼓膜や耳小骨を振動させて音として知覚させるには不適当な超低周波・低周波音である。音響の人体への影響、健康被害はこのような低周波数域音の一定期間の曝露による。超低周波・低周波音は、身体内部の臓器や細胞などの固有振動数との関係において、それらを共振させて異変をもたらし、身体的、生理的症状としてさまざまな病的症候を引き起こす要因となる、と考えられる。

 2)低周波音による健康被害−低周波音症候群−

低周波音健康被害は1970年代から問題になっている新しい公害である。国はこの公害を未だ認めていない。研究もほとんどされていない。しかし唯一、和歌山県日赤病院元第一内科部長の汐見文隆医師により、個別的に訴えられていた原因不明の自立神経失調様の症状が各種機械類から発せられる低周波音曝露に起因することが究明され、以降30年わたり音響レベルとの関係において臨床的な研究が続けられてきている。各種症状の音との因果関係の究明と立証は困難きわまりないようであるが、以下、汐見医師の著作から被害症状などを紹介することで低周波音健康被害の実態の概略を報告する。

なお詳細については、末尾に汐見医師の文献一覧を載せておく。一読をお薦めしたい。また被害者の声についても、被害者が直接筆を取った書物と、ある被害者のブログを紹介する。被害体験のないわたしは、被害の凄惨さを報告する言葉を持たない。他人に伝える言葉の限界を感じさせられると同時に、伝えたいという意思に反して、言葉が被害者の心をもてあそんでしまう無責任を感じる。心ある人は、書物を読むか、ブログに直接アクセスして被害者の声と心に接し、この公害の悲惨な実態を知ってほしい。ただし、いたぶられた被害者の心身は、ある被害者が「生殺し」といっているように、以下に記す被害症状からは想像できない苦痛に満ちた絶望的な状態にある。むやみなアクセスやいたずらな覗き見は固くお断りする。

 3)低周波音健康被害の原因音源

汐見医師は低周波音による健康被害を「低周波音症候群」と名づけている。「低周波音症候群」は「外因性自立神経失調」ともいわれ、原因となる音の発生源は機械類である。それらは主に

@工作機械類、織機類、重機類、車両類、各種乗り物、ポンプ類など、

Aエアコン室外機、冷蔵庫、冷凍庫、給湯器、エコキュートなどの家電製品

である。(幹線道路の自動車騒音、基地等におけるジェット機やヘリなどの離発着音による問題は別な機会に報告したい。)これらの各種機械類では、作動による回転音や摩擦音以外に、モーターによる空気の圧縮、吸引、攪拌などをともなうものが多い。これらは低周波音を増幅させる、と考えられる。

  4)被害症状とその特徴

@汐見医師の見解では、被害発生は、1040Hzの周波数帯域の低周波音レベルで多発しており、暴露音圧レベルは、参照値以下の60B前後のことが多いという。しかし、参照値を超える高い音圧レベルで被害が訴えられているケースもある。

A発症は個人差が甚だしく、人によって数週間から数年以上の潜伏期間があり、妻が死ぬほど苦しんでいるのに、夫は平気だったりすることがある。

B被害は、多種多様な身体的、生理的症状としてあらわれ、心理的影響もあるとされる。これらの症状は医学的な検査をしても異常はみつからず、「不定愁訴」と診断されることがほとんどである。また被害者は、こうした症状から「更年期障害」や「自律神経失調」、時には「神経精神疾患」として扱われることもある。

C「低周波音症候群」の特徴は、音の発生源の稼動停止、あるいは被害者がその場所から離れたりすると、症状が消失ないし緩解することである。この点で「不定愁訴」とは異なり、原因が低周波音によることが特定される。

D症状は、不眠・頭痛・イライラ感が多いとされ、そのほかに、頭重・めまい・息切れ・肩こり・動悸・胸の圧迫感・吐き気・耳鳴り・耳の圧迫感・目や耳の痛み・四肢の痛みやしびれ・身体の倦怠感・疲労感・微熱・風邪の症状・腰痛などが訴えられる。これらは一般症状とされている。

E症状の進行とともに聴覚が過敏になり鋭敏化する。長期曝露により音響に対する耐性が損なわれ、聴覚的に適正な周波数範囲の音に対しても過剰に鋭敏化し聴覚異常の状態に至る、との研究者の報告もある。

こうした症状を訴える被害者の苦しさは尋常なものではなく、低周波音を感じる、その感じ方を次のように語っている。「脳みそを撫でていく」「脳みそがつかまれる」「脳みそをたたかれる」「脳みそが揺すられる」「強い風が頭の中を通過していく」「頭に響くような不気味な音」これらの表現から想像を絶する耐え難くも異常な苦しさが伝わってくる。

 ポルトガルの病理学者、アルヴェス・ペレイラLusofona University教授は、1980年代から30年近くにわたり「VAD=振動音響病」の臨床名のもとに低周波音が生体に与える影響の研究に取り組んできている。教授は、低周波音曝露は生体の臓器や細胞レベルに不可逆的変異をもたらし、その影響は蓄積するとしている。

教授の報告を踏まえて考えるとき、前記症状は急性的症状と理解すべきであり、低周波音曝露環境にある限り[じわじわと確実に身体が侵され」、全身におよぶ慢性化した重篤な病状に進行していくことが心配される。教授は、低周波音曝露は細胞のガン化、遺伝子毀損による催奇性の発現などの誘因、遅発性癲癇、免疫不全など全身におよぶ疾病の発症因子になると報告している。(つづく)

[汐見文隆医師著作紹介]1)「左脳受容説」−低周波音被害の謎を追う−(ロシナンテ社)2)「低周波音症候群」−聞こえない騒音の被害を問う−(アットワークス社)3)「わかったら地獄」−低周波音被害者の悲惨−(低周波騒音問題研究会)4)「隠された健康被害」−低周波音公害の真実−(かもがわ出版)5)「道路公害と低周波音」(晩聲社)6)「低周波公害のはなし」(晩聲社)7)「低周波音症候群を語る」−環境省”参照値”の迷妄−8)「聞こえない音が人間を襲う」−低周波音による住民被害を追って−(ロシナンテ社 月刊「むすぶ」No452掲載)

[低周波音被害者の声]1)ブログ紹介【打倒!低周波音被害〜まけないぞぉ〜】で検索 2)書物の紹介「低周波音被害の恐怖」−エコキュートと風車−(アットワークス社)